■知られざる神戸
・天皇の水
離宮公園の噴水のある本園の東には煉瓦と花崗岩の切石でできた、みごとなアーチのトンネル(幅2.5m、長さ20m)はすばらしい。このトンネルの精巧な技術は須磨離宮公園の山中でも見つけることができる。非公式に『天皇の水』と呼ばれる旧武庫離宮の水源は、高尾台団地に通ずる道路の高尾橋付近から天井川の源流を訪ねるように谷に沿って遡上すると、石造りの堰堤でしきられた100トンほどの貯水池だ。今はもう水道水に切り替えられて使われていないせいか、水の色は底に溜まった落ち葉の色を反映して龍のような何か主が住んでいそうな感じで黒く神秘的に見える。石を投げ入れると、底に到達する様子が窺えるので、深山の底なし沼のようなイメージに反してとても澄んだ水が湛えられていることがわかる。そしてこの貯水池は湧き水だけが溜まるように工夫されていた。すなわち通常の雨水は貯水池の横に掘られた、本園東にあるトンネルとそっくりな構造の隧道を流れて下流に至り、貯水池には流入しないようになっている。この貯水池はどんなに日照りでも枯れたことがないことから、六甲山の水が花崗岩層をくぐり抜けてここで湧き出しているのであろう。往時はここから谷沿いに敷設された4インチの鋳鉄管で現在の本園のこどもの森にあった配水池まで自然流下式で配水されていたようである。『天皇の水』は花崗岩地層をくぐり抜けた天然の濾過作用ですこぶる美味で安全な水であったようだ。今もこの水源の下流の堰堤で誰か民間人の手によって保健所の水質検査結果が掲げられ、近隣の人たちの水場になっている。
■天皇の水&離宮公園本園の煉瓦づくりトンネル